以前、「地主さんや大家さんは何故資産がたくさんあるのに預貯金が少ないの?」という記事を掲載したところ、多くの地主の方のお読みいただけたようです。今回は続編として地主がキャッシュを持っていない理由と、キャッシュリッチになる方法についてお伝えします。
この内容は、不動産管理会社の主催で何度かアパートマンションを所有している地主の方向けにお話しした内容です。理屈としてはわかるけど・・・難しい、という意見が多くありました。皆さん興味はあるようですので、あらためてまとめてみます。
1. 維持費がかかりすぎる
土地や建物を持っていると、それを維持するためのお金がかかります。たとえば、入居者が入れ替わるごとに原状回復費用がかかります。原状回復費用はまとまった金額がかかるため、家賃の低い物件の場合家賃がまるまる原状回復費用でなくなってしまうという事態が起こります。
また、建物が古くなると修繕が必要になります。その他毎年固定資産税を払わなければなりません。物件によっては、家賃収入よりもローン返済に加えて維持費が多くなることがあり、ますますお金が足りなくなります。
2. ローンの返済が重い
地主の場合、すでに所有している土地を用途変更したりして建物を建てるため、土地を買うため費用は必要ない場合がほとんどです。
地主の宿命である相続税対策のため、デベロッパーから建築の提案を受け、かつ地元の金融機関から高額の借入を起こします。借金自体が相続対策となるため、無理に借り続けることになります。
デベロッパー側も家賃でギリギリ回る建築費用を提案してきます。そのため綱渡りの資金繰りの中で返済を続けます。家賃は入居者の退去や相場の下落で減る可能性があるのに対して、ローンの返済は減ることがありません。常にローン返済に追われて手元に余剰資金が残りづらいのは、根本的にローンという存在があります。
唯一の救いは、土地分の借入がないため、よほど無理な立地にアパートを建てなければ、資金繰りが破綻する可能性は少ないことです。それでも、無謀な拡大を続けて、返済が滞って自己破産や任意売却をせざるを得ない地主も出てきます。
もし、地主を目指したい場合は、土地建物を買う、建てるためにローンを組みます。予算が少なくて済み手軽に取り組みやすい木造アパートの場合、耐用年数の短さからローンの返済期間が20年程度と短いため、毎月の返済額が家賃に匹敵するほどになる場合があります。
地主を目指したい人は、地主に比べてローン返済が多くなるため、破綻可能性も高まります。金持ち父さん貧乏父さんを読んで、地主を目指す人もいますが、現実はなかなか厳しいのです。自己負担を多めに用意することでローン破綻の可能性を下げることが可能です。
今後は日本銀行の金利引上げに伴い、アパートローンの金利も上昇することが考えられます。家賃はすぐに上げられませんが、ローンの金利はすぐに引上げることができますので、これからさき、アパートローンを借りている人は、苦しい状況に追い込まれる可能性があります。
3. しがらみがあり不動産を売りづらい
地主は代々受け継がれてきた土地や建物を手放すことに抵抗がある場合が多いです。地主でなくとも、自宅を売れと言われてすぐに売る人は少ないでしょう。区画整理などでなかなか立ち退かない人を見ても、金銭の損得の他に、育った場所や生活環境にこだわりのある人は少なくありません。
地主が土地を処分すると、親戚や近隣からあること無いこと言われてしまうので、心理的に売りづらいのです。お金が必要になったら不動産を売却すればいいのですが、不動産を維持するために無理な資金繰りを続けざるを得ない実態があります。
反対に利便性のいい土地だけ売ってしまい、使い勝手や収益性の悪い土地だけ残ってしまうこともあります。単純に判断を誤ったり、いろいろな業者に言いくるめられたり、ということがあるかもしれません。
金融商品であれば資金が必要になればすぐに売れますが、不動産は購入者が見つかれなければ現金化できないことも地主の資金繰りの悪さに拍車をかけてしまいます。
4. 家賃収入が減る
不動産投資において、家賃を下げることは非常に効果的な空室対策となります。家賃を下げれば入居者がつく可能性が高まります。そのため安易に家賃を下げていくのですが、家賃を下げても維持費が減るわけでも、税金が少なくなるわけでもありません。ローンの返済も減りませんから、資金繰りが悪化の一途を辿ります。
不動産を管理したり、物件の入居者付けを行う業者も、家賃を下げれば入居者が決まりやすいため、安易な家賃下げを推奨する可能性もあります。管理費は下がりませんので、地主のためのアドバイスなのか、自分たちが仕事しやすくするためのアドバイスなのかは注意が必要です。
5. 税金が重い
土地や建物には税金がかかります。入居者がいなくても納税がなくなることはありません。相続税評価においては入居者の割合で建物評価が変わる場合もありますので、空室にするといいことはないのです。
収益性が低い底地なのに、固定資産税や相続税の納税は確実に求められます。本来は不動産を組み替える必要がありますが、土地を手放したくないというこだわりが資金繰りを悪化させます。
6.経営の難しさ
地主という言葉では気が付きにくいのですが、実際は賃貸経営です。経営ですから現状を把握し、設定した目標に向けて日々改善を行う必要があります。しかし地主業の方の多くは、JAやデベロッパーの言いなりで、勉強せずにある意味では搾取され続けています。
経営が難しいため、安易な選択肢かつ悪手である、家賃を下げることを選択します。家賃を下げると最終的に物件の入居者の多くが生活保護者といった状態になります。はじめから生活保護者向けの物件として企画された不動産ならば問題ありませんが、旧来の入居者からすると、住環境が劣悪になっていく感覚になり、退去につながる可能性もあります。
どのように付加価値を生み出すか、効率的に運営するかを考える努力と行動が必要です。
7. 相続問題
土地を相続すると、誰がどの不動産を相続するかなど、遺産分割や相続税の納税問題で揉めることがあります。このようなトラブルが起きると、相続税の納税期限を守るため土地を売らなければならず、優良物件を手放すことになったりします。
相続税額が数千万円から数億円なのに、手元資金がほとんどない地主もたくさんありますから、相続をきっかけに受け継いだ資産の大半を切り売りし、不良物件ばかり残ってしまうという悪循環に陥っている地主も多くいます。すべてはお金が無いことが問題なのです。
8. 金融資産投資を行っていない
不動産だけにお金を使っていると、それがうまくいかなかったときに他に頼れるものがなくなります。多様な資産を持っていないと、いざというときにお金が不足してしまいます。
不動産は家賃収入に対して、支出が多くあり、手残りが少ない投資です。一方で金融資産への投資は、固定資産税、維持費、火災保険、管理費、修繕費などが必要ないため、同じ利回りだとしても手残りは多くなります。
これからの地主は、少ない手元資金を金融資産投資によって増やすことで、徐々に財務体質を改善する必要があります。
地主の資金繰りを改善するためには、以下のような具体的な対策を検討することが重要です。
1. 不動産の収益化を最大化する
- 空室対策を強化する: 賃貸物件の空室を減らすために、賃料設定を見直したり、物件の魅力を高める改装を行ったりします。また、賃借人が見つかりやすいように、不動産会社やインターネットを活用して効果的に宣伝します。
- 新しい用途を検討する: 使っていない土地や建物を、新しい用途に活用することを考えます。例えば、駐車場やシェアオフィス、イベントスペースとして貸し出すことで収益を増やすことができます。
2. コスト削減を進める
- メンテナンス費用の見直し: 定期的なメンテナンスを計画的に行うことで、大規模な修繕を避け、長期的にコストを抑えます。また、複数の業者から見積もりを取り、コストを比較することも有効です。
- 税金の節税対策をする: 税理士と相談して、可能な節税対策を講じます。たとえば、固定資産税の評価を見直す申請を行ったり、相続税対策を行ったりすることで、税金の負担を軽減できます。
3. 資産の多様化を図る
- リスク分散のための投資: 不動産以外の投資にも目を向け、資産を多様化します。例えば、株式や債券、投資信託などに分散投資することで、リスクを減らし、安定した収益を得られるようにします。
4. 借入金の見直しとリファイナンス
- ローンの見直し: 現在の借入金が高金利であれば、低金利のローンに借り換えを検討します。また、返済条件の緩和を金融機関と交渉することも考えられます。これにより、月々の返済負担を軽減することができます。
- リファイナンス: より良い条件での借り換えや、新たな借入金を利用して、短期的な資金繰りを改善することも有効です。ただし、これには慎重な判断が必要です。
5. 新しい収益モデルを導入する
- 賃貸管理のアウトソーシング: 賃貸管理を専門の業者に委託することで、効率的に運営を行い、収益を最大化します。また、自分で管理するよりもプロに任せることで、空室率を下げることができる場合もあります。
- 不動産の一部売却や部分賃貸: 必要に応じて、土地や建物の一部を売却して資金を確保することも検討します。また、建物の一部を賃貸することで、追加の収益を得ることができます。
6. 相続や家族間の問題を解決する
- 相続税対策の専門家に相談: 相続に伴う税金の負担を減らすために、早めに相続税対策を行います。また、家族間での相続に関する話し合いを進め、トラブルを未然に防ぎます。
- 家族信託の活用: 家族信託を利用することで、資産の管理や運用を家族内で円滑に行うことができます。これにより、資産の有効活用とトラブル防止が期待できます。
7. 専門家の助けを借りる
- 不動産コンサルタントに相談: 自分で判断が難しい場合は、不動産の専門家に相談することをお勧めします。市場動向や最適な運用方法をアドバイスしてもらうことで、資産を有効に活用できます。
- 税理士や弁護士に相談: 税金や法的な問題については、税理士や弁護士に相談して、適切な対策を講じます。
これらの対策を組み合わせて実行することで、地主としての資金繰りを改善し、財務状況を安定させることができます。特に、現状をしっかりと把握し、計画的に行動することが重要です。